ZIG ZAG WALK

おもしろきことは,よきことなり。

万障エクスタシー

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土砂降りの雨の中。

壊れかけの傘が強風でさらにきしんでいる。

「どっちだろう・・・」

前へ進もうにも目的地の方角がわからなかった。

 

「はあ・・・」

隣からはわざと聞こえるようため息が聞こえる。

そりゃそうだ。

まさかこんなことになるなんて。



先週,息子が通っている保育園の遠足があった。

働く両親のために子どもを預かってくれるのが保育園の役割だった気がするが,息子が通う保育園は平日に親子参加の遠足が組み込まれていた。

親が参加できなければ自宅での保育となる。

一般的に求められる役割からすれば意味がわからない仕組みだ。

ただ,子どもと遠出することがあまりない家庭のための行事と思えば,そんな気もする。

 

我が家も,妻より私の方がスケジュール調整ができたため,私と息子で参加することにしていた。

「楽しみ〜」と息子。

保育園から帰る途中に寄ったスーパーで,友達と食べるおやつを息子はあれやこれや悩んで買っていた。

 

遠足は,諸般の事情で市外の博物館に行くことになっていた。

前日になって,妻もなんとか仕事をやりくりして参加することが決まった。

保育園での最後の遠足なので,妻も一緒に行きたかったのだろう。

日付が変わるまで仕事をして帰宅した後,子どもたちを寝かしつけた私に代わり,数時間仮眠して早朝から弁当の用意をしてくれた妻の苦労は計り知れない。

 

遠足当日。

出発時には降っていなかったが,昼から夕方にかけての予報は雨だった。

念のため折り畳み傘をバッグに入れておいた。

自宅から保育園には距離があり,送迎はいつも車である。

この日も近くのコインパーキングに駐車して,そこから歩いて保育園へ。

一同保育園に集合した後,バスに乗り高速道路で目的地へと向かった。

 

途中のサービスエリアでトイレ休憩となったところで,息子の異変に気がついた。

元気がない。

「どうしたの?」と尋ねると,

「気分が悪い」

バスの車内は人がいっぱいで空気がぬるくこもっていた。車酔いでもしたのだろうか。

 

とりあえずは大丈夫のようだったので元の席に戻らせ,目的地へとバスは向かった。

 

目的地である博物館に到着した。

楽しみがあふれて仕方がなくワイワイと騒ぐ園児たち。

その中で一人顔色が悪い息子がいた。

 

先生から連絡事項を聞いた後は,館内を自由に見学できることになっていた。

集合時間が告げられて解散の合図を機に,それぞれの親子が散っていった。

私達も館内を歩き始めたが,息子の元気は回復していなかった。

「気持ち悪いなら座っとく?」

首を縦に降ったので,近くの椅子に座って様子を見ていた。

縦にも横にも広い空間に,子どもたちの姿と声がかけまわっている。

 

しばらくしても回復の兆しがなかったので見学をあきらめ,弁当を食べる団体用のフロアへと移動した。

「少し寝たら気分がよくなるかもよ」

もちろん食欲などないとのことで,ランチシートの上で息子はあおむけにゴロンとなっていた。

その横で,妻が睡眠時間を削って作ってくれた弁当を大人二人で食べる。

 

「最後の遠足だったのに,残念だね」

「そうだね」

「なんでうちの子どもたちは,魔が悪いのだろう」

そうなのだ。大事な行事のときに限って,二人の子どもたちは怪我をしたり,風邪を引いたりする。

そのために,スケジュールが吹き飛んだり,楽しめなかったりする。

事前に色々と準備してきたのに無駄になる。

本人にも辛いだろうが,親にとっても脱力感この上ない。

 

もそもそと二人で食べているうちに,見学を終えた親子たちが弁当を食べるため続々とフロアへと帰ってきた。

騒々しくなる周辺。

こんな状況じゃ眠れなくなると思って息子の顔を覗き込むと,先程より顔色が戻っていた。

少しは回復したようだ。

「お茶欲しい」

起き上がった息子にお茶を渡すと,ごくごくと飲んだ。

「食べる?」

「まだいい」

そう言いながら周りを見ていた息子の顔が,急に笑顔になった。

 

「あ,○○くんだ」

仲が良い友達が弁当を食べているのを見つけたらしい。

三人で眺めていると,他の園児が息子の元へやってきた。

「これ,あげる」

袋から飴玉を1つ取り出して息子に渡してくれた。

続いて,別の園児もやってきて息子にグミを渡してくれた。

 

しつけなのか遊びなのか,子どもたちの中でお菓子の与えっこをすることになっているらしい。

そういえば,昨日スーパーでおやつを選んでいるときも,誰々にあげるんだとか言いながら選んでいた気がする。

「ちょっと行ってくる」

「大丈夫なの?」

「うん」

息子は買ったおやつを友達に配りに出かけていった。

「車酔いだったのかな」

「元気になったみたいだし,そうみたいね」

遠くの方で友達と笑いながらお菓子を交換している息子を見て,少し安堵した。

 

大人二人で食べても残った弁当を片付けていると,たくさんの違う種類のお菓子を持った息子が帰ってきた。

「○○くんから,もらった」

「よかったね」

にこにこしながら,お菓子をボリボリと食べていた。

食欲も戻ったのだろう。



よかった,と思った次の瞬間。

オエッ。

場に似つかわしくない音に続いて,息子の口から液体が滝のように流れてきた。

私はとっさに,両手を差し伸べたが,とても収まる量ではなかった。

手の隙間からコートの袖口をとおり,肘のほうへと流れていくとともに,大半は床に引いたシートへとこぼれていった。

「もう!」

妻のやり場のない声。

 

「大丈夫ですか」

先生がかけつけてくれて,お手拭きや雑巾を渡してくれた。

なんて用意がいいんだろうと思いながら,汚物を拭き取りビニール袋に詰め込む。

ランチシートも使い物にならなくなり一緒に放り込んだ。

掃除の途中で,妻の衣服も汚れてしまったが,唯一の救いは,吐いた本人の服がほとんど無傷だったことだ。

 

「これからどうしようか」

掃除を終えて手洗いから戻った後,妻から尋ねられた。

息子が今からも嘔吐しないとは限らない。

長距離を生暖かいバスに揺られて帰るかと思うと,その可能性は高いように思えた。

かといって,タクシーで帰るには距離が遠すぎて金額が読めない。

駅は近かったが,電車であったとしても時間がかかってしまう。

悩んだものの選択肢はなかった。

「しょうがない。新幹線で帰ろう」

 

先生方に事情を説明し,三人で博物館の外に出た。

天気予報は見事に的中し,横殴りの雨が降っていた。

用意しておいた折りたたみ傘を取り出し,広げる。

が,広がらなかった。

1年以上使用していなかった傘は,ちょうつがいの部分が錆びついているのか動きが悪かった。

上下に力を入れていると開きはじめたが,長時間折りたたまれていたので,全開にしようとすると傘の部分が逆に広がってしまう。

 

ようやく開いた傘をさしながら,雨の中を歩きはじめた。

汚物入りのビニール袋を片手に持って。

妻も,折りたたみ側に息子を入れて横に並んで歩いていた。

雨はだんだん激しくなってきた。風も時折強く吹き付け,傘が折れそうなくらいしなる。

2つの傘は雨脚に比べて3人の親子を守るには全く不十分で,足先だけでなく体にも水滴がついた。



しばらく歩いたところで,駅の方角がわかっていないことに気づいた。

近くのはずなのだが,案内看板が見当たらない。

「どっちだろう・・・」

「駅どこだろうね。あっちかなあ」

吐いたおかげで気分がよくなったのか,息子の声は腹が立つくらい明るくなっていた。

「・・・あっちじゃないの」

妻が,街灯に掛かる案内板を見つけた。

 

「靴の中もびしょびしょになったわ」

確かに,私もつま先が冷たくなってきた。

「なんで,いつもこうなるのだろう」

確かに,何度思い出してもうちの子どもたちは魔が悪い。

「せっかく,無理して仕事休んで,朝から弁当用意したのに」

確かに,頑張って用意したのに報われてないな。

「遠くまできた結果が,博物館に来て吐いて帰るだけ」

確かに,そのとおり。

「しまいには,高いお金払って新幹線で帰るだけ」

 

その言葉を聞いて,急に笑いがこみ上げてきた。

こんな,報われないことがあるんだ。

こんな,絵に書いたような不運なことがあるんだ。

 

でも,これって誰かに責任があるのか?

吐いた息子か?

結果的に無駄になった弁当を作った妻か?

液体を支えきれなかった私か?

おやつを配ってくれた友達か?

目的地を決めた保育園か?

すんなりと広がってくれない傘か?

激しく雨を降らせる雲か?

 

責任というより,すべての事象が偶然あわさったに過ぎない。

いやひょっとしたら,ちょうどこのようになるようになっていたのかもしれない。

どちらにしても,これを大不幸と捉えるか,まれに見る奇跡の事象と感じるか。

それは実は,私の,自分だけの認識次第なんじゃないか。

良いも悪いも。

うまくいったこともうまくいかないことも。

期待も不安も。

全ては,自分の価値観が投影されたもの。

 

だから普遍的な客観的なものとしての事象には,

良いも悪いもないし,

うまいくったことも,うまいくいかないこともないし,

期待も不安も存在しない。

世界は,自分が決めているんだ。

 

頭の中で引っ張り続けられていた糸が,プツリと切れてしまった。

これまでの人生の中で積み上がっていた不安,期待,後悔といった感情が,ガラガラガラと崩れていった。

激しい雨の中,私はひとり大声で笑っていた。

笑うしかなかった。

本当に。



「うわ~。速いね〜新幹線」

「そうやろ。15分で博多までつくよ」

「すごいね~」

流れる景色を見て息子が興奮していた。

「いいねえ,新幹線乗れるなんて,棚ボタやん」

妻の皮肉が聞こえる。もちろん,息子には伝わりはしない。

「遠足の思い出が,ゲロ吐いて新幹線で帰るとか,普通はおもしろ体験だよ」

ちょっとした笑いが漏れた。

「友達とお菓子の与えっこができただけでも,いいんかな」

「あ,駅!」

気分が悪かったことなどすっかり忘れ,今を楽しんでいるようだった。

 

自宅近くの最寄り駅で降り駅舎の外へ出ると,雨はあがっていてちょっとだけ晴れ間が見えた。

さっきの雨模様は何だったのか。

「はあ・・・」

妻がため息をつく。

「まあ,無事に帰ってこれたからいいやん」

慰めにもならない言葉をかける。

でもそれは私の本心だった。

 

息子と歩くそんな私に向けて後ろから妻が一言。

「車,置いてきたね」

「あっ」



うまいかないことも楽しむこと。

瞬間に湧き出てくる感情を無理やり制御することは難しいだろう。

でも,一呼吸おいて思い出せばいい。

 

すべてを許そうぜ。

【福岡妄想日記・原西】私を救ってくれた,酒場のランチ

 パシャパシャ。

 少し遅れて,足先に冷たい感触。

 季節はずれの暖かさが続いた数日前から,一気に秋を通り越して冬になったような昼下がり。空は低く,雲は薄暗い。出勤したときは雨の気配などなかったのに,会社に着いた途端に久しぶりのまとまった雨が届いた。今は小雨になっているけれど,歩道のコンクリートは吸い込み切れない雨水を地面に残したままだ。

 こんなことならブーツにしておけばよかったのだ。傘も持ってこなきゃいけなかったのだ。いや,そもそもこんな時間に帰らなければよかったのだ。いや違う。チーフが悪いのだ。チーフがわかってくれないからこんなことになるのだ。

 足元を見る。水たまりに浸かって濡れたベージュ色のパンプスの内側から寒さが伝わってくる。向かってくる風も,初めての冬のボーナスで買った,ピンクのチェスターコートの隙間から細々と,だけどするすると入り込んできて体温を奪っていく。

 このままじゃ風邪ひいちゃう。早く帰ろう。

 水たまりをよけつつ,両足をいつもより速く進めようとする。が,左肩にかかった中身いっぱいのずっしりとしたトートバッグのせいで,体が思っているより前に行かない。

 早く帰ってお風呂に浸かってじっくり温まって,あがったらお湯を沸かして甘いココアをたっぷり入れて,ここのところの残業でずっと見ていない撮り貯めた恋愛ドラマを見ながらゆっくりするんだ。そしてカモミールの甘いアロマを炊いた加湿器にスイッチを入れてふかふかのベッドにもぐりこんだら,部屋の電気を消してお気に入りの音楽をかけたら,ゆっくりと目を閉じて,どっぷりと朝まで寝てやるんだ。最近は土日も出勤していたし,睡眠が足りてなかったのだ。そうだ。だから上手くいかなかったのだ。こんなに残業させるのが悪いのだ。そうだ。チーフが悪いのだ。全部チーフが・・・・・・。

 キキィー!

 突然の甲高い音に気づき,足元から目線を戻して前を向いた瞬間,目の前に自転車が飛び込んできた。左側に避けようとしたが,足元のバランスと重い荷物のせいでよろけてしまった。ドスンという音とともにトートバッグから雑誌が飛び出して歩道に散らばった。地面についた左の掌から遅れて鈍い痛み。

 立ち上がろうとして,ピンクの袖が泥水を吸って変色していることに気づく。

 ああ! 買ったばかりなのに!

 じんじんとする左手と震える右手で散らばった雑誌をトートバッグにおしこむ。十数冊あるうちの何冊は水でふやけてしまった。

 もう! なんでこんなについてないんだろう。

トートバッグを肩にかけたところで思い出し,たった今歩いてきた道の方へ視線を向ける。ぶつかりそうになった自転車は何の謝罪の言葉もなく,遠く黒い豆粒になっていた。

 なんなの! みんなして,ひどい・・・・・・。

 小雨は変わらず降り注いでくる。寒さと痛さと運の悪さ,そして人の冷たさに,涙が出てきて視界が滲んできた。

 目をぎゅっとつむり,右手の甲で拭う。

 とにかく,帰ろう。

 

 そう思って家の方へ振り返ったところで,1つの立て看板が目に入ってきた。

原通りの有田の交差点を,南にちょっと下っていった先。

 人の腰高くらいの木製の黒板に,ランチタイムサービスの文字。その背後にはベージュ色の2階建ての建物。

 こんな店,こんなところにあったかな・・・・・・。

 平日の昼間にはこんなところにいることはないし,休日は閉まっているのだろうか。今の家に住みはじめて8か月近く経つが,目の前の建物はこれまでの記憶の中には浮かんでこなかった。

 通りに面した大きな窓をとおして中の様子がうかがえる。テーブルが2つ,カウンターが数席見えた。落ち着いた雰囲気のこじゃれたお店。黒板に書かれたお店の名前からして。夜はお酒を出すお店のようだ。

 昼のこの時間も開店しているようだが,客の姿は見えなかった。

 ふいに,右ポケットから振動が伝わってくる。ピンクのケースが目印のスマートホンを取り出し画面に目を落とす。

 会社からだった。

 画面を見ていると,数時間前の光景がありありと目の前に浮かんできた。

 明かりを落とした部屋の壁面に映し出される資料。沿って流れる期待と不安に満ちた声。視線の先には静寂と腕組するチーフの姿。

 「今回も,ちょっとダメだな」

怒りと悔しさがこみ上げてきて,ぬぐったばかりの目頭が再び潤んできた。

 振動を無視してポケットに放り込んだところで,

 きゅるるるる。

 お腹がなった。朝食べてなかったんだ。そういえば,昨日の昼から食べていなかったんだっけ。だいたい今日の昼は,頑張った自分へのごほうびとして,2週間前にオープンした大名のフレンチのお店に行く予定だったんだ。そのはずだったのに・・・・・・。

 きゅるるるる。

 途端に全身の力が抜けそうになった。その場にしゃがみこみそうになる。さすがに何か食べないと倒れそうだ。

 先ほどの黒板に目をやった。ちょうどランチタイムサービスの時間だ。

 この際だから,入ってみよう。

 黒板の横の入口のドアノブに手をかける。回して押すと,中から暖かい空気が漏れ出してきた。

 店内は外から覗き込んだとおりの空間だった。そんなに広くはない。見えないところにあった2席のテーブルを足しても,20人も入ればぎゅうぎゅうだろう。カウンターの天井部分にも大きな黒板が掲げられてあって,たくさんのメニューと金額がびっしりと白色のチョークで書き込まれている。流れるBGMはゆったりとしていて,どこか南国を思わせる。奥にはクラシックギターが1つだけぽつんと置かれていた。

 きょろきょろと眺めていると,厨房から男性が出てきた。

 「いらっしゃい」

 30代前半だろう。半袖姿のその男性は,柔らかい口調で迎えてくれた。

 軽く会釈をして,無言のままカウンターの真ん中の席に座った。財布が入ったかばんを座席の下に置く。自分以外にお客がいないことを確認して,トートバッグを隣の席のカウンターに置こうとしたところで,左手の汚れに気がついた。

 「・・・・・・すみません。お手洗いをお借りしていいですか?」

 「後ろの奥の方です」

 

 流水につけてみた。冷たさに加え,鋭い痛みの後にじんじんとした鈍い痛みが続く。流し終えるとじわりと赤く滲んできた。再び水で流す。2,3度やっているうちに,血は止まった。

 ついでにコートの袖に水をつけハンカチで軽く拭う。薄くはなったが汚れが残ってしまっている。即刻クリーニング行きだ。

 トイレから戻るとカウンターに座った。やはり店内には私以外に客はいなかった。通りに面した大きな窓の向こうは暗く,人通りはなかった。

 「今日は冷えますね」

 カウンターの向こう側から男性が声をかけてきた。

 店員も彼以外には見当たらなかった。おそらくコック兼店長なのだろう。

 「・・・・・・そうですね。雨が降ってしまって,さらに寒くなった気がします」

 「ここのところずっと暖かい日が続いていたのに,急に寒くなりましたね」

 「そうなんです。秋が全然なかったですね」

 「ここ数日で,厚着の人が増えましたもんね」

 男性が大きな窓の方を向きながら呟いた。

 「寒いのが苦手なので,仕事に行く人を見ると大変と思いますよ」

 そう言いながら半袖から延びる両手を厨房台につく彼を見て,思わず吹いてしまった。

 「ぷはっ」

 「???」

 男性は理解していない様子だった。

 店内はほどよく暖かい。コートを脱いで隣の席にかけ置いた。

 「・・・・・・半袖の人が寒いのが苦手とかいうと,ちょっと笑っちゃいます」

 少し間があってから,あっ,と気づいた素振りを見せる。

 「いやー,コンロの前むちゃくちゃあついんですよ」

 厨房の奥の方を覗き込む。といっても目の前の男性がいる場所から4,5歩の距離だ。壁には無数のフライパンや中華鍋がぶら下っていた。

 「暑いのも苦手なんで,しょうがないから冬でも半袖なんです」

 男性は微笑みながら答えた。

 それなら火を使わない料理しか出さないとか,そもそも料理人にならなかったらよかったのに。

 男性の表情を見ていると,料理が好きだからやっているんだろうなと感じた。

 「ところで,何になさいますか?」

 プラスチックできたメニュー表を渡してくれた。白色の紙に黒色で印刷されたそれは,自宅のパソコンでつくったようなレイアウトと飾り気のない文字が並んでいた。

 メニューを読もうとしたところで,隣の席においたコートから鈍い振動音がした。

 そのままにしておこうとも思ったけれど,確認すらしないのも変に思われたりしないかと思い,コートを手繰り寄せる。取り出してみると,想像していた職場の電話番号ではなく,職場の先輩の携帯の電話番号だった。

 どうしよう・・・・・・。

 人想いの,面倒見のいい先輩のことだ。きっと心配してくれて連絡してくれているに違いない。まゆを寄せる不安げな表情が浮かぶ。

 次の瞬間,あの姿,あの言葉が割り込んできた。

 「独創的じゃない」

 喋り終わり,照明が戻ったところで,腕組みした姿から発せられた一言。

 心の中で私は倒れ込んだ。

 昼も食べずに仕事して,毎日残業して,家に帰っても考えて考えて出したものなのに。

 1度目はよかった。初めてのことだったし,厳しさを知ることができたから。2度目もいい。まだ慣れていないし,思いが至らなかった点もあっただろうし。3度目は・・・・・・,まだいい。あの仕事ができる先輩だって,私だって最初は3回ダメ出 しされたよって言ってくれたから。

 でも,4度目ともなると,さすがに辛い。苦労して積み上げて完成したドミノが,スタートを目前にトラブルで勝手に途中で倒れ始めるように,一からやり直しになることの徒労感と,認められない事実から推測される自分の能力のなさに,投げ出したくなる。自信,気力,意欲といった全ての前向きな気持ちがガラガラと崩れ,逃げ出したくなる。

 いや,正確には逃げ出してしまったんだけれど。

 

 スマートホンは電話に出るまで震え続けようとしているように思えた。

 もう,ほっといてよ・・・・・・。

 私は,振動が伝わらないようにできるだけポケットの奥底にねじ込み,コートをぐるぐるにまいてから隣の席へと放り投げた。

 BGMの裏で細々とした重低音が店内に漏れ続けていたが,顔をあげず俯いたまま座っていると,急に途絶え店内は元の雰囲気を取り戻した。

 「・・・・・・お仕事,大変そうですね」

 はっとして,見上げた。

 男性はカウンターに両手をついて,私の方を見ていた。いや,目線は少しずれていて隣の席に置いてあったトートバッグに向いていた。

 今気づいたが,隣の席に置いていたトートバッグからは,いたるところに様々な色のふせんがついた雑誌が飛び出していた。

 「お昼でも電話がかかってくるなんて,ほんと大変ですね」

 飛び出していた雑誌の束を,そそくさとトートバッグの中に押し込む。

 「毎回,締切りがあるから大変でしょう。私なんか時間にルーズなので,無理だなあ」

 「えっ?」

 再び男性の方を見あげる。あれっと思ったような顔つきだった。

 「いや,その,取材と原稿の締め切りに日々追われているのを想像したら,大変だなあと思って」

 無造作に入れ込んでぱんぱんになったトートバッグを足元に置きなおした。

 「何しているようにみえます?」

 「えっ,雑誌の記者じゃないんですか?」

 ああ,そう思っていたのね。

 「ええと…,ちょっとした商品の企画やっているんです」

 「あ,そうなんですか。それは失礼しました。でも,商品の企画とかすごいですね」

 「といっても,1年目のペーペーなんですけどね。今年社会人になったばかりです」

 溜まっていた息を一気に吐きだした。固まっていた両肩の力が少しだけほどけた気がした。

 「雑誌はもともと読むのが好きなんですけど,あと,流行とかも仕事的にチェックしといたほうがいいかなと思っていて」

 「それであれだけの量を持ち歩いているんですか? 1年目だからかもしれないけれど,すごいなあ」

 「なかなか,というか全然,成果に結び付かないんですけどね」

 そうなのだ。毎週数種類の雑誌を買って,新しいファッションとか商品とかチェックし,活かせそうなものをピックアップしているのだ。ピックアップしたものはノートに書き込み,アイデアとしてとっておく。その中からいくつかこれだと思うものを,先輩に相談してから会議に出すのだ。

 先輩や同僚はアイデアをほめてくれる。だから,それだから大丈夫だと思い,一気に企画書に落とし込んで行くのだけど・・・・・・。

 「自分で考えた?」

 言葉って,本当にナイフだと思う。もちろん実際に刺されたことなんて人生でないのだけれど,あの言葉を浴びたとき,何の抵抗もなく体にすとんとナイフが突き刺さっていくような感じがしたんだ。

 自分で考えた,だって。もちろん考えたからこそ,深夜まで資料を作り込み,家に帰ってからも発表の練習をしてまで会議に臨んでいるのだ。企画として面白いと思うからこそ,ここまで頑張っているんだ。それなのに・・・・・・。

 店内をゆるやかに流れていたBGMが終わったのか途切れる。少しの間の静寂に外を走り抜ける車の音が入り込んできた。

 視線をカウンターに落とす。光沢のある表面にいくつもの横線が走っていた。

 「頑張って企画を出すんですが,なかなか認められなくて」

 「商品として出すんだから,よっぽど難しいんでしょうね」

 「みんなに買ってもらえそうな,役立って面白いものをっていうイメージで,流行のものを一生懸命調べて出すんですが・・・・・・だめなんですよね。独創的じゃないって」

 「独創的じゃない?」

 「そう。『独創的じゃない』って言われるんです。それも,1回だけではなく,2回も3回も」

 言葉にしているうちに,じわりとチーフの顔が浮かんできた。メガネの縁から覗く新人にすら遠慮のない眼光。

 「その後で『自分で考えた?』って聞かれるんです」

 「自分で考えた?」

 「『自分で考えた?』って。読んだ雑誌で取り上げられていたものを,商品に活用できれば受けると私なりに考えて出しているんです。もちろんそのままパクリとかではないですよ」

 追っていたカウンターの横線がじわりと滲んでくる。

 「・・・・・・そうですか」

 そう言い残すと,男性はカウンターから離れて厨房の方へ向かっていった。

 BGMは途切れたままだ。無音だと,思い出したくもないのに今朝聞いたばかりの言葉と光景がありありと溢れ蘇ってくる。

 ああ,もう駄目だ。帰ろう。

 席を立とうとしたところで,男性が戻ってきた。

 「すみません。今日のランチは私が決めていいですか?」

 そう訪ねたかと思うと,私の返事を待つことなく手元にあったメニューは回収されてしまった。

 「いや,ちょっともう今日は・・・・・・」

 「あなたにぜひ食べてもらいたいものがあるんです」

 「でも・・・・・・」

 「そんなに時間はかかりませんから」

 そう言って,男性は厨房へと向かった。

 確かに一度店に入ってしまったのだから食べずに帰るのも失礼だ。

 私は仕方なく席に座り,男性が料理を作るのを眺めていた。

 

 大きめのフライパンを火にかけ,油を入れる。油がフライパンに馴染むのを少し待っている間に,冷蔵庫からテキパキと食材をいくつか取り出し,机にトントントンと順番に置いていった。かと思うと,しゃがみ込んで,調味料だろうか。何本か中身の入った瓶を次々と取り出しては机に並べていった。

 食材をテンポよくフライパンに放り込む。そのたびにじゅわっという音と蒸気が溢れてくる。熱気の中でフライパンが上下左右に揺れていた。

 男性の動きには無駄がなかった。無意識だが正確無比に調理しているように見えた。が,工場のロボットのように,決まった通りに同じ作業をこなすというものではなく,ダイナミックな動きもあってどちらかというと相手にあわせて踊っているような,楽しさというか,人間っぽさが伝わってくる踊りだった。

 なんか,かっこいい。

 男性の表情は,一見無表情だった。というよりは,真剣だったという方がしっくりくるかもしれない。目の前の料理に全神経を注いでいる感じだった。料理とだけ向き合い,会話しているようで,店内も,私の存在すらも一時的に忘れ去られているように思えた。

 料理つくるのが,心から好きなんだろうな。

 

 「お待たせしました」

 目の前に料理が運ばれてきた。頬をなでのぼる熱気。

 途中からぼーっとしていたので,完成したことに気づかなかった。

 「これは・・・・・・なんですか?」

 「ええと,オムライスです」

 「これが?」

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 確かに真ん中には黄色の薄い膜のような物体。卵で包んでいるのだからオムライスではある。ただ,覆いかぶさっているのは赤色のケチャップではなく,弾力のある透明なタレのようなものだった。

 そして,タレに浮かぶネギや白菜,しめじなどの色とりどりの季節の野菜たち。

 「中華風角煮オムライスです」

 「・・・・・・中華風・・・・・・オムライス?」

 「どうぞ。食べてみてください」

 手渡された銀色のスプーンを黄色の膜に突き刺すと,隙間から湯気がもくもくと立ち上がってきた。

 卵の膜と一緒にすくってみると,中から出てきたのはケッチャップ色の米粒ではなく,黄色の米粒で,チャーハンのような見た目だった。

 そのまま,口に放り込んでみる。

 !!!

 「あ,あ,あっつ〜い・・・!」

 「大丈夫ですか?」

 「・・・・・・はい。はい。はいひょうふでふ」

 はふはふと,熱気でなぶられる口の中では塩の効いた米粒とほのかに甘い卵が踊っていた。

 「おいひいへふ」

 「それはよかったです」

 男性は微笑んだ。

 お世辞でなくて本当に美味しかった。まわりのタレも旨味があふれていて,旬の野菜たちと絶妙な食感と食べ合わせを作り出していた。

 そして極めつけは,タレに沈んでいた角煮。炙られた豚の肉質から香ばしい香りが漂ってきて,噛むと口の中ですんなりと裂けては肉汁を舌の上にたらしていった。

 おいしい。

 昨日の昼から何も食べていなかったこともあり,無我夢中でスプーンを皿に突き刺しては口に持っていくのを繰り返していると,あっという間に2,3粒のチャーハンが残るだけとなった。

 「・・・・・・ふう」

 スプーンを皿におく。顔をあげて男性の方を見上げる。

 「ごちそうさまでした。本当に美味しかったです」

 「それはよかったです」

 「面白いですね。中華風オムライスって。チャーハンを包んでオムライスにみせかけて,中華丼のあんにつけるなんて」

 スプーンで取り残されていた米粒たちを端に寄せ,すくって最後の一口を味わった。

 幸せな気分だ。さっきまで,もう消えてなくなりたいくらい気持ちが沈んでいたのに。食べて糖分が補給されたから? いや違う。出してくれた料理がすごく美味しかったからだ。嫌なことを忘れてしまうくらい美味しかったからだ。

 

 「考えるの大変だったんですよ」

 男性は窓の方をみつめた。相変わらず外は寒々そうだったが,雨はやんだようだ。雲が途切れたのだろう。道路の路面が明るく見えた。

 「うちは2週間に1回はランチのメニューを変えることにしているので,本当に必死で考えますよ」

 男性は厨房を出て私の後ろを通り過ぎ,壁横の黒い機器に手をかけた。しばらくすると,先ほどまで流れていたBGMが再び聞こえてきた。

 向かい合うように元の位置に戻った。

 「かけあわせるんです」

 唐突な言葉に,しばらく男性の顔を見つめていた。

 男性は,口の端をちょっと上向けにして

 「自分が知っているありふれたものの中から,考えて,あわせるんです」

 「知っているものから・・・・・・あわせる」

 どういうことだろう。

 「そうです。そのために試すんです。何度も。何度も。考えては,試す」

 「あわせる・・・・・・」 

 男性の言った言葉を中で繰り返してみた。

 知っているものを,考えて,あわせて,試す。

 「中華丼と,チャーハンと,オムライスを合わせると?」

 男性が問いかけてきた。

 

 「あわせると・・・・・・中華風オムライス!」

 思わず両手でパチンと叩いてしまった。

 「そうなんです」

 「へーえ,そうやってこれが生まれたんですね」

 すっかり空になってしまった皿がなんだか宝物に見えてきた。

 すごいなあ。こんな今まで食べたことがない美味しいものをつくるなんて。料理人さんの頭はきっと頭の回転が早くてアイデアに溢れているに違いない。

 「創意工夫って,既存のもののかけあわせなんですね。料理なんて,誰でもたくさんの人がこれまでに作ってきて,誰も考えつかなかったような想像を超えた全く新しいものなんてないんですね。食材だってそうです。発見されていない食材なんてもうないんじゃないでしょうか。だから」

 「だから?」

 「だから,既存のものをあわせてみるんです。考えては試してばかりいると,これは!という当たりがいつか出てくるんです」

 そうか。自分の知っているものの中から,考えて試してと,試行錯誤することが大切なんだ。

 

 瞬間。

 頭の奥にビビっと電流が流れた気がした。

 目の前にしてなかなか思い出せない人の名前が急にでてきたような。

 テレビで流れる音楽が何だったか思い出せずにいたところ,終わる直前でタイトルを思い出すような。

 ピタゴラスイッチの玉が急に転がりはじめる。

 

 「そうか!」

 私はカウンター手をついて立ち上がり,叫んだ。

 「流行のものを取ってくるだけではダメなんだ。いち早く追いかけるのではなくて,むしろ,今あるものからから考えたほうが,近道なんだ」

 面白いものはなにか,役に立つものはなにかという視点で,ありふれているもの,身近なもの,でも結びついていないものから,あわせるんだ。でも・・・・・・。

 「アイデアは既存の要素の新しい組み合わせ,とアメリカの実業家も言ってますもんね。でも,なんでもいいというわけでもないんですね。頭の良い人ならそんなにかからないのかもしれないですけど,凡人だと,試行錯誤してみないと・・・・・・なかなかですね」

 男性の目を見つめる。柔らかい眼差し。

 そうか。だからこの人は・・・。

 私は静かに腰を下ろした。

 

 「ありがとうございました。私に教えてくれるために,ランチを決めてくれたんですね」

 「・・・・・・ほかに,おむボロネーゼとかあったんですが,中華風オムライスのほうがインパクトがあるかなと思って」

 男性は天井を見上げた。

 「以前の私も,最近の雑誌やらテレビのワイドショーやらで出てくる料理を見て,同じようなものを店で出してたんです。流行の料理をいち早く出して。でも,全然お客は増えませんでした。むしろ,常連さんからも飽きられて『これ,あの店でも食べたしなあ。こんなんじゃなくて,いつもの感じの,ここでしか食べられないやつ出してって』って。」

 「それから,今まで自分がつくってきたものを思い出して,何かないか考えるようになりました。そうやって考えてたら,ある日」

 視線をこちらに向けてくる。

 「あのレシピとあのレシピ結びつけたら面白いなあと思いついたものがあったんですよ。そのまま混ぜたらおいしくなかったので,味付けを変えたり分量を変えたりしていたら,おいしくて面白いものができあがったんです。試しに出したら,すごい受けてしまって。それからですね。ちゃんと自分で考えるようになったのは」

 満たされたおなかをさすってみる。

 「おむボロネーゼも食べてみたいです。でも,さすがに今日は無理です」

 「でしょうね。じゃあ,また2週間の間に来てくださいね。また新しいメニューに変わりますから」

 ええ,と微笑んでみせたところで,喉に乾きを感じた。そういえば,食事はとったが水分はとっていなかった。

 「すみません,何か飲み物をいただけませんか」

 しまったというような顔つきになった。

 「ああ,ほんとすみません。お水出すの完全に忘れてました」

 慌てて冷蔵庫の方へ向かう男性を呼び止めた。

 「せっかくなんで,紅茶とか,コーヒーありますか」

 「ええと,飲み物はこちらに」

 振り返った男性が先ほどカウンターの向こうに引いたメニューを再び差し出してきた。

 「ええと・・・コーヒーがいいんですが,温かいのはないんですか?」

 メニュー表のアイスコーヒーと書かれたものを見ながら男性に質問した。

 「そうですね,アイス用にしか作っていないんですが・・・」

 冷蔵庫の扉を開け,黒い液体の入ったボトルを取り出した。

 「こんなのでよければ」

 そう言いながら液体をカップに注ぎこみ,電子レンジの中に入れてボタンを押す。

 ノイズのような機械音が続いたあとに,チンとお馴染みの音。

 電子レンジから取り出したカップからは,温かい湯気と濃い匂いがのぼっていた。

 それは皿の上に載せられて,私の手元へと運ばれてきた。

 「ちょっと雑ですけれど,アイスコーヒをホットにしてみました。うまくいったかはわかりませんが,試行錯誤ということで」

 男性の顔は見たところで,吹いた。

 「ははは。教えてくれるだけじゃなくて,お手本までみせてくれるんですね」

 「お水を出さなかった分のサービスです」 

 2人から自然と笑みがこぼれた。

 私のために作ってくれた試作品に口をつけてみた。お世辞にも美味しいと言えるほどのものじゃなかったけれど,乾いた私の体にはじっくりと染み渡っていった。

 

 「天気も良くなってきましたね」

 大きな窓の外を見ると,先ほどと比べ一段と明るくなった。日が差してきたのだろう。

 私は男性の方に居直った。

 「今日は大変勉強に・・・じゃなかった,大変美味しいランチをありがとうございました」

 「少しは元気になりました?」

 少しどころじゃない。どん底だった気力と体力を一気に天井まで救ってくれた。

 「ええ。ちゃんとごはんは食べないとダメですね」

 「また食べに来てください。お代は・・・900円になります」

 座席の下のかばんの中から財布を取り出し,1万円札を抜き取った。

 「すみません。大きいのしかなくて」

 「大丈夫ですよ・・・って,ちょっと待ってください」

 1万円札を受け取らず,カウンターの後ろにある棚の引き出しをゴソゴソとしたかと思うと,小さな絆創膏を取り出した。

 「使ってください」

 「あっ,そんなことまで。すみません」

 よく見ると,お札を差し出した左手の指は少しだけ血が滲んでいた。

 いただいた絆創膏を貼る。ちょどよい大きさで,傷がしっかりと隠れた。

 「9100円のお釣りです」

 お釣りを受け取り財布をかばんにしまい,隣の席に無造作にほっておいたピンクのコートを広げて着る。袖口の汚れが見えたけれど,不思議と気にならなかった。

 「ありがとうございました〜。また来ます!」

 ここに来てよかった!

 

 かばんを肩にかけて入口のドアノブを回した途端,開く隙間からどっと冷たい空気が流れ込んできた。

 一歩外に出ると小雨はすっかりやんでいて,雲は薄くなり隙間から少しづつ太陽の光が降り注いでいた。ひんやりとはしているけれど,暖かさを感じる。

 深く息を吸ってみた。湿気があるけれどちょっとだけ爽やかな空気が体に入ってくる。

 連絡しなきゃ。

 私は,コートの中のスマートホンを取り出した。

 右手の人差し指で着信先を探しだし,電話のマークをタッチする。

 耳に当てたスマートホンから3回目の呼び出し音が鳴ったところで,つながった。

 「大丈夫? どこにいるの!?」

 聞き慣れた先輩の声。心配してくれている声。まゆをひそめた表情が浮かぶ。

 「すみませんでした。今から戻ります」

 「だから,どこにいるの? 大丈夫なの?」

 「家の近くなんですが,もう大丈夫です」

 「ほんとに?」

 「ほんとです」

 しばしの無言。胸をなでおろすような雰囲気が伝わってきた。

 「・・・・・・そう。でも,もう今日は家に帰って休んだ方がいいよ」

 「いや,ほんとに大丈夫です」

 「・・・・・・昨日も遅かったし,あまり寝ていないんでしょ。今日ぐらい休みなさい。チーフもそう言ってるから」

  えっ? 社会人にもなって,耐え切れずに会社から逃げ出したのに? 

 「チーフが?」

 「そうよ。頑張っているのはわかってるけど,疲れた体では何も考えられないって」

 「・・・・・・そうですか」

 「だから,今日はゆっくりしていいから」 

  先輩もそこまで言ってくれるのなら,甘えてもいいかな。

 「・・・・・・わかりました」

 「あの,今日のチーフの言葉はあまり気にしなくていいから」

 「え?」

 「あのあと,『今日のはまあまあよかったんだけどな』って言ってたのよ」

  えっ? なにそれ?

 「でも,だって・・・・・・」

 「チーフはどうやって考えだしたのか聞きたかっただけなのよ」

  そうなの? 本当に? それならそうと,早く言ってよ。

 「そうだったんですね」

 先輩の声を聞きながら,肩の力が徐々に抜けていくのがわかった。

 ・・・・・・やっぱり,チーフが悪い。

 「だから,また明日でもお話しましょう」

 「はい。わかりました」

 「じゃあ,気をつけて帰りなさいよ」

 「あの・・・先輩!」

 「ん? なに?」

 「・・・・・・電話していただいて,ありがとうございました」

 「いいのよ」

 「それと,明日からは・・・・・・すごくいいものを見せてみせます」

 「うん。その調子。じゃあね」

 通話を終えたスマートホンをコートにねじ込む。

 ちょっとだけうるんだ目尻を指でぬぐった。

 

 明日から頑張ろう。

 もう,きっと大丈夫だ。

 

 家の方へと歩き出し信号を渡ったところで,後ろの方からから声が聞こえてきた。

 振り返ると,お店の男性が何か手に持って喋っている。

 「忘れ物ですよ〜」

 雑誌がいっぱい詰まったトートバッグ。

 しばらくは,使わないかな。

 「お店に置いといてください!」

 「このバッグは?」

 「また取りに行きまーす!」

 返事を待たず,私は再び家の方へ勢いよく歩き出した。

 

 パシャパシャ。

 パンプスが水たまりを跳ねるたび冷たかったけれど,心地良かった。

両想いのカ・タ・チ(北九州市)

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和室に置いてある棚の上から2番目の引き出しを開けると,木製の小さな箱が出てきた。

くくられた赤い紐をするすると解いて蓋をはずしてみると,白い台座に並んだ2つの指輪。

 

つまんで取り出してみる。長い間忘れ去られていたためかひんやりと冷たい。

数年前の結婚のときに買ったものだが,家事をしているうちにはずれたり酔っ払ってはずして忘れたりするという理由で,結局お互い指にはめずに保管したままだ。

使われていない指輪にも,こうやってあらためて手にとってみれば当時の馴れ初めの記憶を呼び起こす力があるのかもしれない。けれど,2匹の怪獣を追い追われる毎日に存在すら忘れかけていた。

 

お互いの想いをあらわすものといえば,どんなものがあるだろう。

 

中学校の頃,他の男友達の誰にも知られないようにこっそりと続けていた,気になる子との日々のとりとめのない内容の手紙であるとか。

 

気になっている子が歌っている間にもう一つのマイクで割り込んで,そのうち上手に交互に歌うようになる二次会のカラオケであるとか。

 

雪が降るくそ寒い中,コートに両手を突っ込み,マフラーに顔をうずめて帰宅する私の前をゆっくりと歩くカップルの繋がれた右手と左手であるとか。

 

婚姻届ともなれば法律上,形式上も拘束力の強いものであって,提出するときのボルテージは最高潮だろう。

 

あらわす方法は人それぞれ千差万別かもしれないが,それが世間一般にありふれたものではなく,この世に一つしかないくらいの特別なものになればなるだけ,その想いとつながりはの深く,強いものに違いない。

 

そういう意味で,北九州市ともう一つの市の想いはすごいと思う。

 

北九州市

政令指定都市であり,(現時点の人口が)福岡県第2の都市である。

北九州といえば,工業都市であり,現在では過去の公害への取り組みからか環境先進都市となっている。

 

その北九州市で目を引く条例に「関門景観条例」というものがある。

 

景観について定めた条例であり,景観法に基づく条例としては,他都市でもありそうなものである。

何がユニークかといえば,同じ名称・条文・施行日の条例が九州の対岸である本州の下関でも制定されていることである。

 

下関と北九州にとって,関門海峡とは観光名所だ。

歴史で言えば,源平合戦壇ノ浦の戦いの地であり,宮本武蔵佐々木小次郎が決闘した巌流島があり,長州藩が外国とドンパチした四カ国連合艦隊砲撃事件の地であり,日清講和条約の締結の地である。

それにお盆には,両岸からドーンとあがる花火大会。

 

観光の分野を中心に,隣の自治体と連携しますと言って,両市の市長が握手して協定書をとりかわしたり,都心で名産品を合同で売り込むイベントなどはよく見かけると思う。

けれど,議会をとおして条例という公式ルールまで共同で制定するという連携は,正直自治体職員にとっては相当骨のいることであり,最初にこの発想を考えた人はとんでもない人物に違いない。

そのせいか,自治体職員の目から見れば,両市の関門海峡の景観に対する思いが溢れまくっている証となっているのだ。

 

なお,条例を見てみると,北九州市の関門景観条例は平成13年制定で,下関の関門景観条例は平成17年になっていて,あれっと思ってしまう。これは,下関市市町村合併により新しい「下関市」となり,例規も平成17年に一からスタートとなったからだろう。

 

昨今の地域活性化や課題解決のメニューの中で,連携とか共同といった言葉がついた事業は,言葉が持つ意味以上にありふれているような気がしてならない。

 

そのレベルを超え,両市に並ぶくらいインパクトのある条例をつくる自治体が果たして出てくるのか,楽しみである。

 

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日本人の行動,生活についての公式のルール,国が定める法律は,今現在どのくらいあるのだろう。

 

総務省の法令データ提供システム上は平成28年12月1日現在で,法律は1961本あるそうだ。これに内閣が定める政令や各省庁が定める省令といったものを入れると,8000を超える。

 

直接的には身近な生活に関係ないものが多いにせよ,我々はそのような計り知れないほどの数のルールの中で生きている。

 

一方,国ではなく住んでいる都道府県や市町村が定める条例・規則はどのくらいあるのだろうか。

 

市町村の数だけでも約1700ある。

条例や規則の数を数えたことはないが,なんとなくの勘で最低でも300は下らないと思うので,掛け算すると

 

1700 ☓ 300 = 510000!

 

条例のうち,法律により定めなければならない条例とか(それがほとんどであるが),自治体運営に必要なものを定める条例とかは,どの自治体も似通っている。

 

しかしながら,小学校の社会科の授業で習った地方自治というフレーズの通り,地域の実情に応じたルールを自治体は定めて良いわけで,古くから,そして最近の地域活性化ブームもあり,自治体独自の条例が増えてきている。

 

もちろんルールとする以上,制定に至る課題や背景があり,それに対する解決策や方向性が示され,その地域の住民が守るものとして法的な手続きを経て決定されているはずである。

 

そのような条例は,異なる価値観,生活態様を持つ他地域の人々にとっては新鮮であり,斬新であり,疑問であり違和感があるかもしれない。しかし,知ることで自分の地域での解決策に繋がるかもしれないし,一歩進んでその地域のことに興味をもつことができるかもしれない。

 

また,法律と比べてメディアの露出が少ない条例である。

自分に関係がある地元ルールとしてこんなものがあったのかとか,こんなことが条例で決まっていたのかとか,こんなことまで条例で決めないといけないのかなど新たな発見があるに違いない。

 

ということで,私なりに各自治体のユニークな独自条例,一住民の立場ではあまり知られていそうにない条例・規則を探してみては,私なりに取り上げてみたい。

 

こんなことは,既に先駆者がおり書籍化もされているので何も目新しいことではないが,やってみる価値はありそうだし,条文を追っかけるだけなら手間もかからない。

最近は便利になったもので,ほとんどの市町村が条例や規則をウェブサイト上にアップしている。インターネットの窓に手を突っ込んでみれば,福岡からは遠い北海道の市町村の条例だった瞬時にみることができるのである。

 

無限の物語の,はじまりはじまり。

「●●のくせに」 〜財政出前SIM2030inのべおかを体験して~

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平成29年1月14日,私は「財政出前SIM2030inのべおか」を体験してきた。

 

イベントの内容,特にSIM2030については,既に他の参加者によって講評されているし,中身を知らずに体験する方が得られるものが大きいので,ここでは割愛する。

ただ,一度体験した者からの視点で一言いえば,各地で行われてきた回数分だけ,改良が重ねられ進化しているように感じられた。

 

それよりも私が気になったのは,SIM2030の改良具合より財政出前講座の講師の交代である。

 

以前,財政出前講座とSIM2030の今後の可能性について,SIM2030のファシリテーターはともかく,財政出前講座は現役かOBの中から次の者を見つけないといけませんね,といった趣旨のことを講師と話したことがある。

「財政」のことを語る以上,財政のことは当然に熟知しておく必要がある。そもそも知らないことを他人に説明なんてできないからだ。たとえできたとしても,言葉だけの上澄みの薄っぺらいものと,聞いた人も当の本人も感じるだろう。

それに,他人に専門分野について話す,説明するということは,「当事者」だからこそ説得力があるものだ。

さらに,政令指定都市とはいえ一地方都市の財政出前講座が全国各地でここまで人気になったのも,講師のキャラクターの濃さによるところも大きいだろう。

 

そんな前提がある中での,講師の交代である。

 

もともと延岡には,一年半の間における財政出前&SIM2030の進化を確認しに行くはずだったわけであるが(決して「おぐら」にチキン南蛮を食べにやってきたとか,地ビール「ひでじビール」の新酒を飲みにやってきたとか,こんにゃく麺の「枡元」の辛麺で締めにやってきたとか・・・そういった理由ではないことを申し添えておく。念のため。),講師がピンチヒッターに交代するということで,主目的はそちらに移ってしまった。

「代打」がどこまで財政のことを話すことができるのか。

 

入社4年目の,財政部門を経験したことのない職員に。

あえて悪意をもった言葉にすれば「財政未経験者のくせに」。



代打の人物像を先に述べておくと,一度でも会った人は知っていると思うが,人柄もキャラクターもよい。過去にはSIMのファシリテーター的役割もこなしており,囃家になりたかった講師ほどではないにせよ,大勢の人前で話すことは得意な方に思える。それに体型もなんとなく講師に似ている。

 

また,財政については,出前講座で触れる内容レベルではあるにせよ,今まで十数回も講師と一緒に各地を回っているし,既に一度はピンチヒッターを経験済みということなので,充分に頭に入っているだろう。

それに,伝えたい主旨は,やろうと思えばアクセス可能なデータから分析し導き出せるものであるし,既に市民向けにも公表されているものでもあったりするので,そんなに難しいものでもない。

 

残るところは,「当事者」性である。現場を経験した者であるか否か。

こればかりは,事実の積み重ねであり一定程度の時間を要する経験である。学んだだけであるとか短期間の努力でなんとかできるものではない。

 

現場経験者とそうでない者との説得力の違いは何なのか。

学者よりも,実際に現場でやっている人や勤め上げたOBのほうが,話を聴きたくなる。

それはリアリティがより実感できるからだろう。問題意識を持つとともに上手くいかない状況にいて,苦楽を,理想だけではない現実を知っているだろう。建前だけでなく本音も一定程度は聞けるだろう。

特に「財政」については一般の職員であっても直接的な関わりが薄く,話をじっくり聴く機会などないのだ。

 

代打の口から雰囲気から,そういったニュアンスは醸成されるのか。

福岡からの稀有な参加者として,私は遠い席から眺めていた。

 

財政出前&SIM2030の構成は,まず財政出前講座があってSIM2030があり,再び財政出前講座という構成になっている。

前半部分については,予想どおり疑問に対する指摘の深さや説明のリアリティさに物足りなさを感じた。それは私が既に一度同じ話を聞いているからかもしれないし,どうしても担当者としての経験や専門用語,業界ネタの話が聴衆の興味を引くところであり仕方がないかもしれない。

 

一転,SIM2030を終えたあとの後半部分については,熱のこもった,理解を促しつつ共感を場とともにするような話し方でノッていて,多くの参加者に伝えたいことを伝えられていたように思える。。

 

そう。

財政出前講座は後半が肝なのだと,私は思っている。

データに裏打ちされた現状の説明のあと,ゲームを通じ楽しみながら葛藤しながらと解決の道を体験したあとに,対話のその意味と重要性に気づきを与える。

 

財政出前講座の後半における「当事者」とは何か?

それは,財政担当者だけではなく,限りある歳入を執行する事業担当者であり,地方自治体を支える職員である。

いや,公務員というステータスに限定された話ではなく,現在だけでなく将来を見据えたお金の使い方に気づいた人であり,もっと一般化していえば自分事として考えられる人である。

誰であろうと現状に疑問を感じる「意識」である。

 

代打のその熱は,これまでの講師と同行した回数に現れているし,中途半端な気持ちでは大役を引き受けることはできなかっただろう。

 

対話とは会話ではなく,情報と価値観の「ぶつけあい」と「認めあい」である。

日々の業務からはじまり全国の年齢も生活も異なった人とのふれあいを通じて,その重要性と可能性を認識し実感していたからこそ,真に彼自身の言葉で,熱をもって語ることができたのだろう。

 

財政出前&SIM2030の伝えたいことからすれば,もはや講師による出前講座ではなく,代打である彼の立場からの出前講座であってもよいわけで,ひょっとしたら財政担当者という経験は必須ではないのかもしれない。

そうであれば,今後の代打である彼の出前講座に必要なものは,これまでの事業担当の立場からの経験と,財政出前&SIM2030の自身の事業へのフィードバッグ実践例だろう。

 

財政出前&SIM2030は,学ぶだけでは,気づくだけでは,その効果は不十分である。住んでいる自治体のお財布は,財政危機を煽っといて実はまだ大丈夫なのかもしれないが,今のうちから認識を共有し将来のため実践することに意味がある。

その点では主役であるべき市民をSIMに巻き込んで総合計画の策定に活かしたという酒田市の例が,未来への処方箋になると思う。



好評のうちに終わった財政出前SIM2030inのべおか。

 

聞くところによると,講師の財政出前講座のカンペである「秘伝の書」がオープンソースとしてばらまかれるそうだ。今後,各地で第1,第2の財政出前講座が生まれるだろうし,代打である彼の出前講座もまたどこかであるのだろう。

代打である彼にとって,「財政」の理解が進んだ先に何があるのか?

ひょっとしたら数年後に財政の門をくぐっているのかもしれないし,基本計画の策定に携わっているのかもしれない。

 

数年後のその時,代打である彼の出前講座を思い出すことを想像し,今後の活躍に期待したい。

【私的福岡・番外編】ビール党員として今週末延岡に行ける幸せ。

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飲むことが好きだ。

なかでもビールは好きだ。

最近は毎朝の保育園の送り迎えがあるのでアルコールの量を控えねばならず,1杯目はビールでも2杯目はハイボールで打ち止め・・・という生活が板についてきたが,金曜や土曜なら終わりまでずっとビールということも多い。

 

夏場にじっとりと汗をかいたときは,アサヒのスーパードライでククッと行きたくなる。

ちょっと贅沢をしたいときは,サントリープレミアムモルツで乾杯をする。

オールマイティな感じのキリンは鍋の時によく飲む。

サッポロも飲む機会は少ないが,嫌いではない。

 

また,地産地消ということで福岡・糸島の地ビール,杉能舎のビールを飲んだり。

中洲川端のふらりと寄れる立ち飲み屋でアーケードの人通りを眺めながら同僚とハートランドを飲んだり。

本屋なのにビールのイベントやったり,最近では本とビールをセットで売ったりしている福岡天狼院で店長のいうままにブルームーンを開けたり。

毎年10月に博多区の冷泉公園で行われるオクトーバーフェストで,酔っ払いバンドの歌にあわせた酔っ払いの行進を横目にしつつ,ソーセージをほくほくとついばみながらドイツビールを飲んだり。

他にも,クラフトビールの人気ということもあってか,たくさんのビールがこの世に出てきていて,ビール党は多種多様なビールを味わうことができる。

 

みんなそれぞれ志向もあるので,どれが一番かということを決めることは容易ではないし,そもそも決まらないと思う。

無駄な価値観の衝突と,不寛容さの露呈をするだけだし,それらは自らの視野を狭めるだけである。

決める必要はないし,決めてはいけないとまで思う。

 

そんな私は確かにビールが好きだけれども,人に自信を持って伝えられるほどの知識も経験も舌もない。

私の意見などたいしたことがないかもしれない。

けれども,ビール党にどうしても飲んでほしいビールがあるのだ。

 

 

宮崎ひでじビール。

一年半前,九州は延岡にある工場で作られるクラフトビールに出会った私は,これまでにない衝撃を受けた。

自然で飽きがこない飲みやすいビール,花の香りとほのかな味が口元に広がるビール,夏みかんの甘酸っぱさが喉元を通りすぎるビール,木立の香りが鼻を突き抜けるビール。

どれもこれも体験したことがない新鮮さだった。

 

なぜ今まで知らなかったのか不思議だったが,聞いたところによれば,全国で地ビールが生まれたときからの創業だったものの,他の地ビールと同様人気の陰りとともに消滅しかかっていたところ,2010年代に入ってから従業員たちの手により新たに会社を設立して再興したとのことであった。

ひでじビールは宮崎の太陽と,宮崎の人達の情熱をもってして今に生きるビールなのだ。

 

そんなひでじビールだが,地ビールという性質からなのか宮崎県外ではあまりお目にかかれない。福岡でも取り扱っている飲食店はかなり少ないし,一般販売の取扱店は博多駅にあるくらいだと思う。

ビール党の皆様に,一度だけでもぜひ飲んでほしいところだが,残念ながら福岡をはじめ宮崎県外で味わってもらうことは難しい。

ネット通販で取り寄せることは可能だが,それだとひでじビールのストーリー性を語るにはちょっと味気ない気もする。

 

そんな中である。

ちょうど都合のいいイベントが運よく行われるのだ。

 

今週末の2017年1月14日,延岡市で「財政出前SIM2030inのべおか〜2年目のキセキ」が開催される。

福岡市の当時の財政課長が各地で開催していた財政に関する講座「財政出前講座」と,これからの自治体運営体験型シュミレーションゲームとも言うべき「SIM2030熊本」が合体したイベントが延岡市であるのだ。面白く,ぜひ一度体験してほしいイベントである。

このイベントとビールに何の関係があるのか? と不思議に思うかもしれない。

実は,この2つはとても相性がいいのだ。

 

SIM2030は,とても脳が疲れるゲームなのだ。

内容に難しいことは何もない。事前準備など必要もなくその場で説明を聞いて充分である。しかし,とても頭を使う。頭を悩ませるゲームなのだ。

 

講座も含めて午後1時から午後6時までみっちり集中して挑んだらどうなるか?

当然,脳みそは糖分不足の状態である。

ではどうするのか,ビール党の皆さん。

 

飲むしかないでしょう。

疲れ切った状態で飲むビールは格別である。たとえ今シーズン最高クラスの寒波が到来するにしても。

灼熱の太陽に照らされてひび割れた大地に,ひんやりとした冷たい水がとくとくと流れ込むように。

自宅の納屋の片隅に置かれしぼみきった浮き輪が,夏の海水浴シーズンを前にして新鮮な空気が送り込まれパンパンに膨らむように。

黄金の液体が喉元を通った瞬間,心地よさが体中を駆け抜けるのだ。

いつも飲むビールでも美味しい。ましてや,今まで体験したことのない地ビールだとしたら・・・。

 

そうは言っても,これだけでは陸の孤島と言われる延岡まで足を運ぶのは,なかなか億劫と思っている人もいるかもしれない。

延岡に行くメリットは他にもまだある。

ビールをほどよく飲んだ後の締めには,不思議な食感のこんにゃくめんの「辛麺」。

翌日のお昼には,延岡発祥の「チキン南蛮

さらに,通常のひでじビールとは別に,宮崎県内でしか飲むことができない新種のひでじビール「YAHAZU」。

そして何よりも「財政出前SIM2030」を共に体験した者同士での懇親会。

これは行くしかないでしょう。

 

そう。

私はビールを飲むために家族を説得して延岡に行くのだ。

 

ここまで煽っときながら,残念なことにイベントの申込期限が過ぎてしまった。

けれど,今後も同様のイベントが延岡で開催されることは間違いない。

 

ビール党員の皆さん。ぜひ延岡でビールを飲む幸せに浸りましょう。

申し訳ありませんが,私はお先に浸ってまいります。

(雪で高速道路が通行止めにならない限り。)

年に一度の関係 ~2016Xmas~

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 年末もすぐそばまでやってきた、年内最後の日曜日。

 12月にしては気温の高かった先週とはうってかわり、晴れてはいるものの太陽の光は弱弱しく、冷たい風が体に吹きつけきて、思わずマフラーに首をうずめてしまう。

 それでも、多くの人にとっても、僕にとっても、一年に一度の心躍る日がやってきた。

 「せい」なる日。外はクリスマス一色である。

 街はネオンに彩られ、耳慣れた音楽が流れ、行き交う人もどこか気分が浮かれているように感じる。

 

 大勢の人混みの中で僕は、右手をコートのポケットにつっこみ左手でスマホを持って、じっと一定の方向を眺めながら、その時がくるのを待って立っていた。

 見知らぬ人と人との間から、ほんの少しだけ垣間見える姿。

 時折吹く風に、茶色の髪の毛が揺れている。凛々しい顔つきと柔らかくもすっと伸びたうなじは、多くの人を魅了していそうだ。

 けれども、僕の好みではなかった。僕的には、見た目はもっと可愛い感じが好きなのだ。

 他にもいないか、もう少し様子を伺ってみる。

 遠くの方に黒髪が見えた。すらっとした長い足と惜しげもなく見せつけるグラマラスな体つきは、周りの人の注目を集めているようだった。

 けれども、僕の好みではなかった。僕的には、外見はおしとやかな感じが好きなのだ。

 スマホの画面を見た。夕方までまだ時間はあるが、悠長にしているほど冬間の昼は長くない。

 

 場所を変えてみようとしたその時だった。

 視線の端に捉えたのは、動きにあわせて左右になびく髪。

 ポニーテールの小柄な姿を、僕の目は見逃さなかった。

 あくまでも自然に、少しだけ近づいてみる。

 思ったとおり。髪も、顔も、体も、僕の好みにぴったりだった。

 次にやることは……と言いたいところだが、よくあるナンパ師のように、気安く声をかけたり、近づいたりはしない。

距離を保ちつつ、最終的な品定めをするため見ていると、偶然にもこっちの方を振り向いた。

 目があった気がした。

 

 僕は顔を落としコートのポケットから右手を出してスマホをいじる。寒さのせいで指を動かしづらいが、体温は徐々にあがってきているように感じた。

 直接には声をかけたりはしない。そういうルールになっているからだ。その時までは仮想空間でのやりとりだけだ。

 スマホをコートのポケットにしまい、続いてズボンの後ろポケットの財布を取り出し、札の枚数を確認する。今日は思ったよりお金がかかるかもしれない。

 

 顔をあげたところで、僕と相手の間を、一組の仲好さげなカップルが寄り添って通り過ぎていった。

 しっかりとつながった手と手。

 お互いの思いが通じあう関係と、お金を媒介とするビジネスライクな関係。

 たとえ、僕が一線を越え対価以上に、一方的に熱い思いを抱いくことがあるにしても、相手に伝わることはないだろう。

 ましてや今から払うこのお金ですら、最終的にどの程度相手の取り分になるのか知らない。

 空を見あげる。晴れているが、寒々しい空だ。

 昨年見た空はどうだったか。

 そういえば、昨年はどんな相手だったか。いやいや一昨年は……。

 

 ふう。

 ため息をつく。

 結局、なんだかんだ言ったって、年に一回、人肌恋しい季節に、ただ欲望を満たすためだけに相手を求めにきただけだ。

 相手を見つけて、お金を払って、ひと時の瞬間を一緒になって、体中の情熱を発し終わった後は、今年もきっと相手のことは忘れてしまうだろう。

 スマホを確認してから、もう一度相手の姿に目をやった。

 相手も準備ができたのか、今いた場所を離れていくところだった。

 うしろ姿もいい。

 

 僕も目的の場所へ歩き出した。

 決めた後は早い。

 恥じらいもためらいも、躊躇も後悔もない。実は本当はあるのかもしれないけれど、高まる興奮で押しつぶしているのかもしれないし、無意識に感じないようにしているのかもしれない。

 やることは一つだけ。

 

 そう。

 ベットに行くだけだ。

 そして後は相手を待つだけである。

 

 始まってからは早い。

 恥もくそもないが、正直にいって3分もかからない。

 こんな短時間のためだけに何枚もの札を費やすことは、人によっては馬鹿げたお金の使い方だと思うかもしれない。

 けれど、日々生きていくうえで体の奥の方に溜まっていく何かを発散し、何の変哲もない日常生活では手に入れることができない儚い何かを求めることは、仕方がないことだと僕は思っている。

 好きという志向は、人によって違うのだ。

 

 僕は声を荒げる。

 両手に力が入る。

 相手も動きが激しくなる。

 愛らしい後ろ髪も勢いよく上下に乱れる。

 最後の瞬間が近づく。

 

 僕も相手も、しばらくは息も絶え絶えだった。

 けれども、フィニッシュの先、一気に熱は冷めていく。

 身体の中で満ちていた波は、ささっと引いていった。

 代わりに押し寄せてくるのは、ついさっきまでは微塵も感じなかった後悔や自責、そして現実の世界。

 

 僕は足早に逢瀬の地を去る。

 吹き付ける風は、来た時より冷たく、痛々しく感じた。

 振り返っても、相手はいない。

 こうして今年のクリスマスは終わっていった。

 

 

 今年の有馬記念も、勝利の女神は微笑んでくれなかった。

「私が市長だったらこのようにするのに」と、思ったことがあるあなたへ。

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 「この事業、本当にやめていいんですか?」

 顔をあげると、目の前に腕組みをした女性が立っていて、私たちを見下ろしていた。

しばらくして、右隣に座っていた部長が立ち上がり答弁を始める。

 「それについては、かくかくしかじかな理由で、今となっては目的を達成したと考えております」

 それを聞いた目の前の女性は、あからさまに首をひねる。

 「あなたたちはそのように考えているかもしれませんが、現に廃止されると非常に困る人達がかなりの人数いらっしゃいます。その人たちを見捨てるのですか?」

 沈黙が流れる。

 「そんな理由では説明になっていません」

 「その点ついては、かくかくしかじかな状態ですので、かくかくしかじかな事業で代替が可能です」

 左隣の部長が口を開き答弁を補足する。

 女性は少し考えるような仕草をした後、言葉を紡いだ。

 「それは、ちょっと非現実的ではありませんか。利用者の親身になって考えていますか? 目の前で同じように説明ができますか?」

 確かに苦しい内容である。聞く人が聞いたら、ただの言い訳ともとられかねない。

 左右を見渡す。下を見る者、空を仰ぐ者。座っている者一同からは、言葉が続かない。

 ふう。

 女性がため息をついた。

 「納得が得られる説明ではありません。そんなことではこの予算案を通すことはできません。」

 座っている一同、顔を見合わせる。

 「この事業は継続し、新規事業については取りやめることが必要だと思います」

 左端の部長が急ぎ手をついて立ち上がった。

 「いや、しかし、新規事業は我が街の特色を生かした、地域活性化の起爆剤です。今やっておかないと手遅れになります。このままでは将来は先細っていく一方です」

 確かにその通りだ。現時点で手を打っておかないと、我が街は衰退の道を辿るしかないように思う。

 「ですから、非常に心苦しいところではありますが、当該事業については、廃止ということでご理解をいただきたいと考えております」

 右隣の部長が懇願するような口調で話す。

そうなのだ。この決断はやむをえないと思う。確かに一部の人に若干の不便を強いることになってしまうが、我が街のことを考えるとこれしかないと思う。我々だってほいほいと廃止しようと決定したわけではない。長い時間内部で協議してからの苦渋の選択である。そこをわかってほしいのだが……。

 立っている女性の目がだんだんと吊り上がる。

 「だからと言って、利用者の方だけに過大な不利益を負わせていいはずがありません!」

 「ですが……、議員もご存知のとおり我が街の歳入はこれだけです。他にはありません。将来を考えるとこの新規事業をやらないわけにはいけません。そうすると、当該事業を廃止するしかないのです」

 一番右端の部長が俯きながら答える。

 昔はよかった。歳入は右肩上がりに増えていった。ところがどうだ、十数年前から今後は右肩下がりだ。おまけに、絶対に廃止できない事業の支出は増え続け、新たに必要なことに向けられる財源は先細りしていく一方だ。もちろん市債を発行するという選択肢もあるが、借金の返済能力を考えれば限度がある。

 そんな現状で新規事業を行おうと考えれば、絶対に廃止できない事業を除いて市民生活にできるだけ影響のない事業を代わりにやめるよりほかはない。我が街の現状は議員もよく知っているはずだが……。

 立っている女性を見上げる。横顔だったはずが突然正面になり、目があってしまった。

 「おっしゃりたいことはわかりますが、とても承服できない内容です。この事業を廃止するよりもっとやることがありませんか、部長さん」

 彼女の銀色のメガネの縁が光ったかと思うと、射貫くような目線が真っ直ぐに降り注いできた。

 「あなたが担当しているあの事業こそ無駄です。廃止すべきではありませんか。そうすれば、この事業も存続できますし、新規事業も行えます。唯一にして最適な解決策です」

 そうきたか。

 上からの目線に加えて、左右からも視線が一気に集まる。

 沈黙が流れる。彼女が一歩、詰め寄ってきたような気がした。

 「どうです?」

 手のひらにじわりと汗がにじむ。悟られないようにズボンでぬぐい、両手を机について立ち上がる。

 お互いの目線が水平になる。交差するまなざし。

 「ご指摘の件については……」

 

 皆さんもこんなことを思ったことはないだろうか。

 家の周りの道路がかなり傷んでいて自動車で通るとかなり揺れる。修理してほしいと思っているけど長い間このままである。テレビをつければ、新しい市の施設がオープンしたらしい。新しい施設を作るお金があるなら……とか。

 子どもが今月は頻繁に病気にかかり、病院代がばかにならない。新聞に目を落とせば、高齢者向けのサービスが新しく始まるらしい。そちらも大事だろうけど、少しでも子ども向けのサービスを増やしてくれれば……とか。

 

 行政にやってもらわなければならないことはたくさんあるのはわかっている。

それなのに、自分がやってほしいことには使われていない気がする。

 「私だったらこのようにするのに」

 最近では行政の情報公開も進み、どのようなモノにどのくらいの費用が使われているか、それがどのようなプロセスを経て決まっていくかということは容易にわかるようになってきた。

 でも、なぜこのようなお金の使われ方になっているのか不思議でならない。

 「私だったらこのようにするのに」

 所得税や消費税、酒税、ガソリン税……など、いろんな形で税金を納めている。

 それなのに、なぜか行政はお金に余裕がないと言ってばかりいる。

 「そんなことはないはずだ」

 そう思ったことはないだろうか。

 

 これら、頭に浮かんでくる素朴な疑問を解消するためには、結局のところ、それらを決めている当事者になるのが一番早いのだが、公務員や議会の議員になることはそんなに簡単なことではない。しかも、実際のところ公務員だからというだけでわかるようになるわけでもないのだ。

 住民である自分にとって身近なことであるにもかかわらず、理解できる機会は少ないように思える。

 

 しかし、だ。

 そんな機会が、実はあったりするのだ。

 

 「財政出前講座」×「SIM熊本2030」。

 2015年の8月、九州は延岡の地で初めて開催されたこの企画。

 現在の自治体の財政と、これから迫られるあり方を、その筋の方からわかりやすく教えてもらえることができる。そして学んだあとは、実際にその場面を自ら体験してみるというグループワークで構成されている。

 そのわかりやすさと、体験から得られる気づきの大きさは瞬く間に反響を呼び、この企画は2年間で30回以上全国の自治体で行われている。

 

 私も初開催の際に参加したのだが、やってみてすぐに感じた。

 これは、地方に生きる誰しもが、ぜひ一度は参加したほうがいいと思う企画だったのだ。

 

 かなり昔のことでうろ覚えなのだが、確か缶コーヒーのTVCMだったと思う。

 居酒屋でサラリーマンが同僚と飲んでいて、最近は日本が外国に舐められているけど「俺ならガツンと言ってやる」と言い放ったところで、時空がすっとんでアメリカの大統領との会談の場にサラリーマンが出現。意見を求められても何も言えず、ただ缶コーヒーを飲んで終わるというオチ。

 もう一つあった。

 K-1全盛期の頃のアーネスト・ホーストと日本人の試合を会場で見ている青年がいて、日本人がやられているのを見ながら「なんで当たるんだ。俺ならよけちゃう」と言ったところで、時空がすっとんでリング上でホーストと対峙するシーンになり、何もできず、ただ缶コーヒーを飲んで終わるというオチ。

 TVを眺めていて感じたのは、大口を叩いていることや、口だけで実際は何もできないことを失笑することではなく、なんにしたって外野からではわからず、当事者になってみないとわからないということだった。

 

 なぜあんな事業をはじめるのか?

 なぜこんな事業をやめるのか?

 なぜ使えるお金がないのか?

 これらの理由を学ぶ機会はそうあまりない。そして、たとえ学んだとしても、

 聞くだけでは。

 見るだけでは。

 知るだけでは。

 多分、心の底からの納得感は得られないはずだ。

 

 実感をもって、腑に落ちるように理解するには、第三者ではなく、当事者になることが重要である。

 それらを「財政出前講座」×「SIM熊本2030」は提供してくれる。

 

 「財政出前講座」×「SIM熊本2030」は全国的に広まっているように思えるが、伝達の手段からしてやっぱり自治体職員の参加が多いように思える。

 けれども、私は公務員以外の人に参加してほしいと思う。

 いや、公務員であるとかないとかにかかわらず、行政のお金の使い方に、今まで少しでも疑問を持ったことがある人ならだれでも参加してほしいと思う。

 それは、公務員の板挟みのような辛さや、矢面にたつ大変さをわかってほしいという理由からではない。

 

 「財政出前講座」×「SIM熊本2030」のキモは、「現状を正しく知ること」と「政策決定の難しさ」や「対話の大切さ」にある。

 自治体の財政の状況がどうであるかを正しく知ることは、住民として生きる自分にとって大事なことであるし、もし本当に必要なことを行政にやってもらわなければならないとき、そのように導くために必要な考え方のカギがわかると思うのだ。

 

 年明け2016年1月、「財政出前講座」×「SIM熊本2030」が再び延岡の地で開催される。

 参加申込みは下記のウェブサイトで簡単にできる。

 

 財政出前SIM2030inのべおか〜2年目のキセキ

 http://www.kokuchpro.com/event/dd025ce624a6e7ab755ab6364693648c/

 

 (参考)Facebookイベントページ

  https://www.facebook.com/events/1290214527688090/

 

 初開催から約1年半の年月が経った今、全国各地での開催により改善がなされ、きっと当初よりパワーアップしているに違いない。

 

 「私が市長だったらこのようにするのに」

 そう思ったことがあるあなた。

 さあ、議会に出てみよう。

 

 もちろん、缶コーヒーを飲んで終わりになんてならないように。