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おもしろきことは,よきことなり。

【私的福岡・番外編(天草)】君に会いにきた。 ~わずか20分間の逢瀬~

 もう10年以上の前のことです。

雑誌で何かキャッチコピーの公募があり,うろ覚えですがその大賞が,

「2時間の電話よりも10分間会いたい」

みたいなやつでした。

 

遠距離恋愛を経験した身としては,わかるなあと思いつつ,それはそれで大変だなあとも思います。

これだけネットが発達して,今では電話による声だけでなく,カメラ越しに液晶画面を通して姿まで伝わるようになりましたが,やっぱり直接会う方が数倍も感覚的に「一緒にいる」「思いが伝わる」ような気がします。

その場にいることが,なんだかんだいって一体感や,大袈裟にいえば生きている実感を体験できるんですね。

 

ということで,私も会いにいってきました。

片道約1時間もかけて。

決して安くはないお金をかけて。

ひょっとしたら会えないかもしれないのに。

最長でもたった20分間しか会えないのに。

 

 

野生のイルカを見に,天草は五和町の沖にクルージングに行ってきました。

 

 

五和町沖の野生のイルカウォッチングには,大きく分けて2つのルートがあります。

天草諸島の下島にある天草市五和町の港からクルージングするか。

天草諸島の上島にある上天草市松島町の港からクルージングするか。

 

場所からいって,五和町からの方が断然近いのですが,九州本島から車で行くとなると,上島を渡りきって下島にいかないといけません。

天草五橋からでも1時間はかかります。

 

一方,上天草市松島町からは天草五橋の四号橋の麓から出向するので,車での移動距離はほとんどありません。

ただし,2時間あるクルージングのうち,片道50分かけて行って20分滞在したあと,また片道50分かけて戻ってくることになります。

どうやら五和町からの方が滞在できる時間は長いようです。

 

当初,五和町まで行ってイルカに会いに行くことを計画していました。

前日の夜,子ども(兄)にこの船でイルカに見に行くんだよ~と見せていると,

「その船だと私と子ども(妹)が酔いそう」

との妻の一言。

そこまで計算にいれていませんでした。

 

実際にはどのくらい揺れるのかわからないのですが,少しでもリスクを減らそうと思い,松島町から出ているクルーザーに乗ることにしました。

大きめの船ですが,その分,五和町から行く場合に比べて料金もほぼ倍に。

ですが,家族全員で楽しくイルカを見るためなら必要経費です。

 

 

当日は天気もよくてクルージング日よりでした。

クルーザーも定員いっぱいになるくらい多くの観光客で溢れていました。

野生のイルカなので必ず会えるとは限らないのですが,98パーセントの確率で会えるそうです。

 

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出港してすぐ四号橋の下をくぐり,大海原へと旅立ちます。

吹き抜ける風が気持ちいい。

を通り越して,クルーザーのスピードが想像以上に速く,吹き抜けるというよりも叩きつける風に目をすぼめてしまいます。

それでも,流れる天草諸島の景色を眺めたり,普段は行けないクルーザーの2階に登ったりして遊んでいるうちに,赤い灯台が目印の目的地が近づいてきました。

 

いよいよ会えるのだ。

 

目的地を見渡すと,遠くからでもたくさんいるのがわかりました。

 

 

イルカウォッチングにきた船の集団が。

 

10数隻でしょうか。

船上に赤いライフジャケットを来た観光客をたくさん乗せた小型の船が,海上の1か所を囲むようにして海にぷかぷかと漂っています。

 

そうかと思うと,ずどどどどどと,突然けたたましいエンジン音が穏やかな波の上を鳴り響き,船が一斉に動き出しはじめました。

その先には,数頭のイルカの群れ!

 

私たちが乗るクルーザーも船の中に飛び込み,イルカを追っていきます。

周りを囲まれ,後ろから追われていることを少しも気にすることなく,イルカは群れをなしてすらすらと前進していきます。

現れて20秒ぐらいしたところで,急にいなくなりました。

「イルカは,1,2分ぐらい潜って呼吸するときに海上に出てくるんです」

とガイドさんの説明。

 

おいおい,そうすると滞在する20分のうち,実際に会えるのは10分もないじゃないか。

心のなかでそう呟きつつ,イルカが現れると,たちまちカメラを向けるとともに,子どもにイルカの場所を指差しで教える私。

 

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初めて野生のイルカを見たためか,現れては消え,また別の場所現れるイルカに興奮したためか,終始子ども(兄)は喜んでいました。

 

それにしても,船頭さんがすごい。

狭い空間のなか,他の船にぶつかることなく,イルカを見つけるやいなや,切り返し,回り込み,船と船との間を差し込んでいく様は,それはそれで見物でした。

 

約束の時間はたちまちやってきます。

「あともう一度見たら戻ります」

ガイドさんの声が船上に響きます。

 

船の上は,どこからイルカが現れてくるか海上をにらめつける眼でいっぱいでした。

船が急に動き始め前進します。

「あ,そこだ!」

子どもが叫んだ先,私たち家族が陣取っている席の前にイルカの群れが現れました。

今までで一番近い。

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多くのイルカたちが,船と並行して泳ぎ,やがて海中へと消えていきました。

 

予告どおり,エンジンが大きな音をあげはじめ,徐々に加速していくクルーザー。

人生で初めての20分間は,あっという間に終わりました。

 

 

帰りの船中は,行きの風景とは全く異なり静まり帰っていました。

遊園地で遊び疲れて眠る子どもたちのように。

別れを告げられその場に一人置き去りにされた恋人のように。

容赦なく叩いてくる風と速度を上げるエンジンの音はともかく,こきざみな揺れは多くの大人の眠りを誘っているようでした。

 

 

50分をかけて港に戻り,船を降りたところで

「あー楽しかった」との声。

船に乗ることも含め,初めての体験に子どもは満足な様子。

 

じっくりとイルカを見るなら,芸達者な動きを見るなら,水族館の展示やショーを見る方がいいでしょう。

正直,野生のイルカは短い時間しか現れませんし,人間のことなど考えない本来の動きしかしません。

それでも群れでゆうゆうと泳ぎ,潜ってはひょっと現れる姿は,見るものの心をおだやかに,時に興奮とともに揺さぶってくれます。

 

せっかく天草まで来たのなら,

20分間だけでも彼らに会いに行ってみませんか。