読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ZIG ZAG WALK

おもしろきことは,よきことなり。

「私が市長だったらこのようにするのに」と、思ったことがあるあなたへ。

f:id:boubilog:20161211232102j:plain

 「この事業、本当にやめていいんですか?」

 顔をあげると、目の前に腕組みをした女性が立っていて、私たちを見下ろしていた。

しばらくして、右隣に座っていた部長が立ち上がり答弁を始める。

 「それについては、かくかくしかじかな理由で、今となっては目的を達成したと考えております」

 それを聞いた目の前の女性は、あからさまに首をひねる。

 「あなたたちはそのように考えているかもしれませんが、現に廃止されると非常に困る人達がかなりの人数いらっしゃいます。その人たちを見捨てるのですか?」

 沈黙が流れる。

 「そんな理由では説明になっていません」

 「その点ついては、かくかくしかじかな状態ですので、かくかくしかじかな事業で代替が可能です」

 左隣の部長が口を開き答弁を補足する。

 女性は少し考えるような仕草をした後、言葉を紡いだ。

 「それは、ちょっと非現実的ではありませんか。利用者の親身になって考えていますか? 目の前で同じように説明ができますか?」

 確かに苦しい内容である。聞く人が聞いたら、ただの言い訳ともとられかねない。

 左右を見渡す。下を見る者、空を仰ぐ者。座っている者一同からは、言葉が続かない。

 ふう。

 女性がため息をついた。

 「納得が得られる説明ではありません。そんなことではこの予算案を通すことはできません。」

 座っている一同、顔を見合わせる。

 「この事業は継続し、新規事業については取りやめることが必要だと思います」

 左端の部長が急ぎ手をついて立ち上がった。

 「いや、しかし、新規事業は我が街の特色を生かした、地域活性化の起爆剤です。今やっておかないと手遅れになります。このままでは将来は先細っていく一方です」

 確かにその通りだ。現時点で手を打っておかないと、我が街は衰退の道を辿るしかないように思う。

 「ですから、非常に心苦しいところではありますが、当該事業については、廃止ということでご理解をいただきたいと考えております」

 右隣の部長が懇願するような口調で話す。

そうなのだ。この決断はやむをえないと思う。確かに一部の人に若干の不便を強いることになってしまうが、我が街のことを考えるとこれしかないと思う。我々だってほいほいと廃止しようと決定したわけではない。長い時間内部で協議してからの苦渋の選択である。そこをわかってほしいのだが……。

 立っている女性の目がだんだんと吊り上がる。

 「だからと言って、利用者の方だけに過大な不利益を負わせていいはずがありません!」

 「ですが……、議員もご存知のとおり我が街の歳入はこれだけです。他にはありません。将来を考えるとこの新規事業をやらないわけにはいけません。そうすると、当該事業を廃止するしかないのです」

 一番右端の部長が俯きながら答える。

 昔はよかった。歳入は右肩上がりに増えていった。ところがどうだ、十数年前から今後は右肩下がりだ。おまけに、絶対に廃止できない事業の支出は増え続け、新たに必要なことに向けられる財源は先細りしていく一方だ。もちろん市債を発行するという選択肢もあるが、借金の返済能力を考えれば限度がある。

 そんな現状で新規事業を行おうと考えれば、絶対に廃止できない事業を除いて市民生活にできるだけ影響のない事業を代わりにやめるよりほかはない。我が街の現状は議員もよく知っているはずだが……。

 立っている女性を見上げる。横顔だったはずが突然正面になり、目があってしまった。

 「おっしゃりたいことはわかりますが、とても承服できない内容です。この事業を廃止するよりもっとやることがありませんか、部長さん」

 彼女の銀色のメガネの縁が光ったかと思うと、射貫くような目線が真っ直ぐに降り注いできた。

 「あなたが担当しているあの事業こそ無駄です。廃止すべきではありませんか。そうすれば、この事業も存続できますし、新規事業も行えます。唯一にして最適な解決策です」

 そうきたか。

 上からの目線に加えて、左右からも視線が一気に集まる。

 沈黙が流れる。彼女が一歩、詰め寄ってきたような気がした。

 「どうです?」

 手のひらにじわりと汗がにじむ。悟られないようにズボンでぬぐい、両手を机について立ち上がる。

 お互いの目線が水平になる。交差するまなざし。

 「ご指摘の件については……」

 

 皆さんもこんなことを思ったことはないだろうか。

 家の周りの道路がかなり傷んでいて自動車で通るとかなり揺れる。修理してほしいと思っているけど長い間このままである。テレビをつければ、新しい市の施設がオープンしたらしい。新しい施設を作るお金があるなら……とか。

 子どもが今月は頻繁に病気にかかり、病院代がばかにならない。新聞に目を落とせば、高齢者向けのサービスが新しく始まるらしい。そちらも大事だろうけど、少しでも子ども向けのサービスを増やしてくれれば……とか。

 

 行政にやってもらわなければならないことはたくさんあるのはわかっている。

それなのに、自分がやってほしいことには使われていない気がする。

 「私だったらこのようにするのに」

 最近では行政の情報公開も進み、どのようなモノにどのくらいの費用が使われているか、それがどのようなプロセスを経て決まっていくかということは容易にわかるようになってきた。

 でも、なぜこのようなお金の使われ方になっているのか不思議でならない。

 「私だったらこのようにするのに」

 所得税や消費税、酒税、ガソリン税……など、いろんな形で税金を納めている。

 それなのに、なぜか行政はお金に余裕がないと言ってばかりいる。

 「そんなことはないはずだ」

 そう思ったことはないだろうか。

 

 これら、頭に浮かんでくる素朴な疑問を解消するためには、結局のところ、それらを決めている当事者になるのが一番早いのだが、公務員や議会の議員になることはそんなに簡単なことではない。しかも、実際のところ公務員だからというだけでわかるようになるわけでもないのだ。

 住民である自分にとって身近なことであるにもかかわらず、理解できる機会は少ないように思える。

 

 しかし、だ。

 そんな機会が、実はあったりするのだ。

 

 「財政出前講座」×「SIM熊本2030」。

 2015年の8月、九州は延岡の地で初めて開催されたこの企画。

 現在の自治体の財政と、これから迫られるあり方を、その筋の方からわかりやすく教えてもらえることができる。そして学んだあとは、実際にその場面を自ら体験してみるというグループワークで構成されている。

 そのわかりやすさと、体験から得られる気づきの大きさは瞬く間に反響を呼び、この企画は2年間で30回以上全国の自治体で行われている。

 

 私も初開催の際に参加したのだが、やってみてすぐに感じた。

 これは、地方に生きる誰しもが、ぜひ一度は参加したほうがいいと思う企画だったのだ。

 

 かなり昔のことでうろ覚えなのだが、確か缶コーヒーのTVCMだったと思う。

 居酒屋でサラリーマンが同僚と飲んでいて、最近は日本が外国に舐められているけど「俺ならガツンと言ってやる」と言い放ったところで、時空がすっとんでアメリカの大統領との会談の場にサラリーマンが出現。意見を求められても何も言えず、ただ缶コーヒーを飲んで終わるというオチ。

 もう一つあった。

 K-1全盛期の頃のアーネスト・ホーストと日本人の試合を会場で見ている青年がいて、日本人がやられているのを見ながら「なんで当たるんだ。俺ならよけちゃう」と言ったところで、時空がすっとんでリング上でホーストと対峙するシーンになり、何もできず、ただ缶コーヒーを飲んで終わるというオチ。

 TVを眺めていて感じたのは、大口を叩いていることや、口だけで実際は何もできないことを失笑することではなく、なんにしたって外野からではわからず、当事者になってみないとわからないということだった。

 

 なぜあんな事業をはじめるのか?

 なぜこんな事業をやめるのか?

 なぜ使えるお金がないのか?

 これらの理由を学ぶ機会はそうあまりない。そして、たとえ学んだとしても、

 聞くだけでは。

 見るだけでは。

 知るだけでは。

 多分、心の底からの納得感は得られないはずだ。

 

 実感をもって、腑に落ちるように理解するには、第三者ではなく、当事者になることが重要である。

 それらを「財政出前講座」×「SIM熊本2030」は提供してくれる。

 

 「財政出前講座」×「SIM熊本2030」は全国的に広まっているように思えるが、伝達の手段からしてやっぱり自治体職員の参加が多いように思える。

 けれども、私は公務員以外の人に参加してほしいと思う。

 いや、公務員であるとかないとかにかかわらず、行政のお金の使い方に、今まで少しでも疑問を持ったことがある人ならだれでも参加してほしいと思う。

 それは、公務員の板挟みのような辛さや、矢面にたつ大変さをわかってほしいという理由からではない。

 

 「財政出前講座」×「SIM熊本2030」のキモは、「現状を正しく知ること」と「政策決定の難しさ」や「対話の大切さ」にある。

 自治体の財政の状況がどうであるかを正しく知ることは、住民として生きる自分にとって大事なことであるし、もし本当に必要なことを行政にやってもらわなければならないとき、そのように導くために必要な考え方のカギがわかると思うのだ。

 

 年明け2016年1月、「財政出前講座」×「SIM熊本2030」が再び延岡の地で開催される。

 参加申込みは下記のウェブサイトで簡単にできる。

 

 財政出前SIM2030inのべおか〜2年目のキセキ

 http://www.kokuchpro.com/event/dd025ce624a6e7ab755ab6364693648c/

 

 (参考)Facebookイベントページ

  https://www.facebook.com/events/1290214527688090/

 

 初開催から約1年半の年月が経った今、全国各地での開催により改善がなされ、きっと当初よりパワーアップしているに違いない。

 

 「私が市長だったらこのようにするのに」

 そう思ったことがあるあなた。

 さあ、議会に出てみよう。

 

 もちろん、缶コーヒーを飲んで終わりになんてならないように。