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ZIG ZAG WALK

おもしろきことは,よきことなり。

年に一度の関係 ~2016Xmas~

福岡妄想日記

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 年末もすぐそばまでやってきた、年内最後の日曜日。

 12月にしては気温の高かった先週とはうってかわり、晴れてはいるものの太陽の光は弱弱しく、冷たい風が体に吹きつけきて、思わずマフラーに首をうずめてしまう。

 それでも、多くの人にとっても、僕にとっても、一年に一度の心躍る日がやってきた。

 「せい」なる日。外はクリスマス一色である。

 街はネオンに彩られ、耳慣れた音楽が流れ、行き交う人もどこか気分が浮かれているように感じる。

 

 大勢の人混みの中で僕は、右手をコートのポケットにつっこみ左手でスマホを持って、じっと一定の方向を眺めながら、その時がくるのを待って立っていた。

 見知らぬ人と人との間から、ほんの少しだけ垣間見える姿。

 時折吹く風に、茶色の髪の毛が揺れている。凛々しい顔つきと柔らかくもすっと伸びたうなじは、多くの人を魅了していそうだ。

 けれども、僕の好みではなかった。僕的には、見た目はもっと可愛い感じが好きなのだ。

 他にもいないか、もう少し様子を伺ってみる。

 遠くの方に黒髪が見えた。すらっとした長い足と惜しげもなく見せつけるグラマラスな体つきは、周りの人の注目を集めているようだった。

 けれども、僕の好みではなかった。僕的には、外見はおしとやかな感じが好きなのだ。

 スマホの画面を見た。夕方までまだ時間はあるが、悠長にしているほど冬間の昼は長くない。

 

 場所を変えてみようとしたその時だった。

 視線の端に捉えたのは、動きにあわせて左右になびく髪。

 ポニーテールの小柄な姿を、僕の目は見逃さなかった。

 あくまでも自然に、少しだけ近づいてみる。

 思ったとおり。髪も、顔も、体も、僕の好みにぴったりだった。

 次にやることは……と言いたいところだが、よくあるナンパ師のように、気安く声をかけたり、近づいたりはしない。

距離を保ちつつ、最終的な品定めをするため見ていると、偶然にもこっちの方を振り向いた。

 目があった気がした。

 

 僕は顔を落としコートのポケットから右手を出してスマホをいじる。寒さのせいで指を動かしづらいが、体温は徐々にあがってきているように感じた。

 直接には声をかけたりはしない。そういうルールになっているからだ。その時までは仮想空間でのやりとりだけだ。

 スマホをコートのポケットにしまい、続いてズボンの後ろポケットの財布を取り出し、札の枚数を確認する。今日は思ったよりお金がかかるかもしれない。

 

 顔をあげたところで、僕と相手の間を、一組の仲好さげなカップルが寄り添って通り過ぎていった。

 しっかりとつながった手と手。

 お互いの思いが通じあう関係と、お金を媒介とするビジネスライクな関係。

 たとえ、僕が一線を越え対価以上に、一方的に熱い思いを抱いくことがあるにしても、相手に伝わることはないだろう。

 ましてや今から払うこのお金ですら、最終的にどの程度相手の取り分になるのか知らない。

 空を見あげる。晴れているが、寒々しい空だ。

 昨年見た空はどうだったか。

 そういえば、昨年はどんな相手だったか。いやいや一昨年は……。

 

 ふう。

 ため息をつく。

 結局、なんだかんだ言ったって、年に一回、人肌恋しい季節に、ただ欲望を満たすためだけに相手を求めにきただけだ。

 相手を見つけて、お金を払って、ひと時の瞬間を一緒になって、体中の情熱を発し終わった後は、今年もきっと相手のことは忘れてしまうだろう。

 スマホを確認してから、もう一度相手の姿に目をやった。

 相手も準備ができたのか、今いた場所を離れていくところだった。

 うしろ姿もいい。

 

 僕も目的の場所へ歩き出した。

 決めた後は早い。

 恥じらいもためらいも、躊躇も後悔もない。実は本当はあるのかもしれないけれど、高まる興奮で押しつぶしているのかもしれないし、無意識に感じないようにしているのかもしれない。

 やることは一つだけ。

 

 そう。

 ベットに行くだけだ。

 そして後は相手を待つだけである。

 

 始まってからは早い。

 恥もくそもないが、正直にいって3分もかからない。

 こんな短時間のためだけに何枚もの札を費やすことは、人によっては馬鹿げたお金の使い方だと思うかもしれない。

 けれど、日々生きていくうえで体の奥の方に溜まっていく何かを発散し、何の変哲もない日常生活では手に入れることができない儚い何かを求めることは、仕方がないことだと僕は思っている。

 好きという志向は、人によって違うのだ。

 

 僕は声を荒げる。

 両手に力が入る。

 相手も動きが激しくなる。

 愛らしい後ろ髪も勢いよく上下に乱れる。

 最後の瞬間が近づく。

 

 僕も相手も、しばらくは息も絶え絶えだった。

 けれども、フィニッシュの先、一気に熱は冷めていく。

 身体の中で満ちていた波は、ささっと引いていった。

 代わりに押し寄せてくるのは、ついさっきまでは微塵も感じなかった後悔や自責、そして現実の世界。

 

 僕は足早に逢瀬の地を去る。

 吹き付ける風は、来た時より冷たく、痛々しく感じた。

 振り返っても、相手はいない。

 こうして今年のクリスマスは終わっていった。

 

 

 今年の有馬記念も、勝利の女神は微笑んでくれなかった。