ZIG ZAG WALK

おもしろきことは,よきことなり。

【延岡妄想日記】スタウト

とくとくとグラスに注ぎこむ液体を眺める。ビールと聞いて思い浮かべる色としては似つかわしくないけれど,それ相応の色をしていた。

 

ひとくち飲みこんでみると,燻られた香ばしい香り。

 

月のダークラガーも同じような味わいだが,ラガーに比べずっしり・ねっとりと重くのしかかるのがスタウトビール(と思っている。)。

 

コーヒーをブラックで飲んでいるようでいて,後味に黒糖の甘さがすっとくる。最後は若干の苦味。

今でこそ黒ビールを楽しめるようになったが,若い時はこの重さ,大人の味になかなか慣れなかった。

 

今でも,コーヒーはブラックでは飲まない。

私のことを知っている人は,打ち合わせのとき確認しなくともミルクと砂糖を添えてくれる。

基本的に,甘党なのだ。



十数年前。

職場の給湯室をのぞくと,あさっての方向を見ながら,小さめの可愛らしいカップにブラックコーヒーを飲んでいる人がいた。

 

仕事上の最初の先輩である。

大学を卒業してすぐの私にとって,リーゼントにダブルのスーツを着こなしタバコを悠々と吸う隣の席の先輩の姿は,同じ職業人として衝撃だった。

外見のとおり,怒鳴り散らす人や,しつこいクレーマー,いかつい格好の方々に対しても,全く動じず,淡々と対応していた。

 

一方,面倒見がいいのか,普段から若手の僕達をかわいがってくれていたし,よく中洲に誘ってくれた。

中洲といえば,色欲あふれる街であり,金曜の真夜中に外を歩けば泥酔客かタクシーにしかぶつからないといった光景だった。

僕達もその環境にどっぷりとつかり,タクシーに放り込まれて帰されるまで飲みまくる生活を送っていたのだが,先輩は全く飲まなかった。

というよりも体質で飲めなかった。

代わりにコーヒーをブラックで飲みながらタバコに火を灯し,アホなことばっかり喋って騒いでいる僕達を,目を細くしながら笑って見守ってくれていた。

 

そんな先輩を見て,これが「大人」なんだなあと,なんとなく感じていた。

 

あれから,十数年。

年齢を重ね,仕事を積み,家庭を持つことで,少しずつだが「大人」の階段を登っていると思いたくもなるが,実際のところはどうだろう。

まだ,先輩の歳には追いつけていないが,追い越す時には先輩のような「大人」になれているだろうか。

 

いや,追い越すことなんてもうできない。

先輩はまさかという年齢で遠くへと旅立ってしまった。



今の職場でミルクが切れていたりすると,しょうがないのでブラックでコーヒーを飲むことがある。

すすっと喉元に流しこんでみるもののやっぱり苦く,好んで飲もうとは思わない。

一方で,時間外に出てくる冷えたスタウトビールは,日中の,一週間の疲れをズドンと吹き飛ばしてくれる飲み物となった。



空になったグラスにもう一度注ぎこむ。

注がれた液体は,あの日給湯室で見たコーヒーの色そっくりのようだ。

懐かしさがあふれては,苦味に溶けていった。

 

そんな気持ちにさせてくれる宮崎ひでじビール

f:id:boubilog:20170225182420j:plain